紅葉の宴 2   作:柏秦透心&火月未音
  

 真夜 「もしかして……玲祈!?」

 真夜の声に、玲祈はとろんとした目を向けた。

シン 「できてるね。あれは」

 出来上がっている玲祈をシンは苦笑いで見る。

真夜 「……やばいなあ。玲祈!」
玲祈 「んあ?」
永輝 「どうした、どうした〜?」

 永輝の目もどこか変であった。

シン 「永輝もやばいかも…真夜無視しちゃっていいからね」
真夜 「私も無視したいくらいなんだけど……」
玲祈 「なんらよぉ真夜ぁ」
真夜 「……駄目だ。ちょっと暁哉! 玲祈がっ」

 玲祈はのたりと真夜に近づいた。

シン 「……なんか嫌な予感…」

 真夜の肩に玲祈の手がかかる。
 シンは黙ってその様子を見ているが、真夜の横に座る緯仰に視線を送る。

玲祈 「そぉんらにオレのこれがほしいか?」
暁哉 「玲……祈さま!!」

 主とお互い笑い合っている緯仰の目が真夜たちの方を向く。
 玲祈の顔が真夜の間近にあった。
 ゴチンと玲祈の頭の上をきらきらと星がとんだ。

シン 「玲祈……大丈夫?」

 真夜の手が玲祈をグーで殴っていた。
 主は開いていた扇子で口元を隠しながら笑いを堪えている。

シン 「真夜……拳より……平手にしたら?」
真夜 「これくらいしないと止まんないでしょ」

 真夜の拳はふるふると震えていた。
 そしてこめかみには青筋が。

シン 「そうだけどねぇ……」

 ぐるぐると星が瞬いている玲祈を心配そうにシンはみていた。
 末席で淡々と食を進めていた鎮破が玲祈たちの様子をちらと見た。

鎮破 「馬鹿が」
剣 「うわぁ〜痛そうだなあれ…」
星来 「お前も殴られてくればいいだろう」

 ぷちっと剣の頭で切れた音が聞こえたが、場をわきまえ拳を押さえて耐える。

永輝 「し〜んにまぁやちゃん♪」
剣 「お、おい!!」
シン 「ちょっと永輝!!」

 玲祈と同じようにシンの肩に手を置きけらけら笑う。
 ゴンと永輝の頭には玲祈のように星が輝き座り込んだ。
 その後ろにいたのは木刀を振り下ろしていた剣だった。

剣 「馬鹿か」
辰朗 「おーおーあついれぇ」
鎮破 「辰朗。おまえも飲み過ぎるぞ」

 辰朗の周りには結構な数の空瓶が並んでいる。

鎮破 「お前。自分が未成年なのを忘れていないか」
辰朗 「気ぃにすんなっれ。な、そこの人」

 辰朗は星来に話しかけた。
 星来は辰朗の呼びかけを無視した。

辰朗 「なんだよぉ。仲良くしてくれよ」

 星来は溜め息を吐いき、一度剣の方をみると、

星来 「悪いがこいつで我慢してくれ」
辰朗 「つつけば響くのは間に合ってるもんで」
星来 「そうか……」
剣 「そうかじゃねぇよ! なに勝手に人を売ってるんだ!」
永輝 「辰朗ぉ〜そんなつまんないやつより、俺が相手してやるぜ!」

 辰朗は口をすぼめて尖らせていた。

辰朗 「なんだよぉ、こっちの御仁も愛想ないのかよぉ」
永輝 「そういうなって! なぁほら飲め飲め!」
辰朗 「えいきとやらも、苦労するねぇ」

 おっとっとと注がれた杯に口をつける。
 いつの間にか永輝は辰朗の後ろ回って座っている。

永輝 「あんたこそつまらない奴らばっかで苦労してんな〜」
辰朗 「ん? そーでもないぜ? つつき方がコツなんだよ」

 にやりと辰朗の口角があがる。

辰朗 「苦労してんのは暁哉やあそこの佐伯さんだよ」
永輝 「つつき方ね〜佐伯さんよ〜こっちで飲まないかい?」
佐伯 「え、あの……」

 真夜がその様子に気づいた。

真夜 「混ざればいいじゃない」

 その脇で暁哉は玲祈を起こしていた。

永輝 「ほらほら真夜ちゃんには隣りに殿がいるから大丈夫だって〜暁哉もこっちこいよ〜」

 シンは丸まっている丸を揺すり起こす。

永輝 「まる〜お前もこっちで酒飲もうぜ〜」

 丸は眠い瞼をこすり永輝たちをぼーっと見るが再び眠ろうとする。

真夜 「丸ってかわいーよねー」

 真夜は湯のみを握り締めるように両手に包んだ。

シン 「疲れたときに寝ている丸を見ると癒しを感じるよ」

 シンは再び夢の中に入ていった丸を見ながら微笑む。

真夜 「うん、癒される。……でもどうよ、あっち側の仏頂面。どうにかなんないかしら」

 真夜は丸のあちらに見える二つ年上に目がいった。
 癒しのあちら側になんとも頭痛が待っているような気がする。

シン 「真夜。癒しを求める時はあっち側は見てはいけないよ。」

 悪気が無いようにさらっとシンは言う。

真夜 「うーわー……シンて結構正直者。そうなのよねぇ、こっち側なんて二人のイケメンが笑顔で談笑してるっていうのに」

 真夜は上座を振り返る。

シン 「うそばっかついていたら疲れるからね。たまには本音を言わなくちゃ。うん。氷李様なんて完全蚊帳の外状態だもんね」

 シンも真夜につられるように上座に目を向ける。

真夜 「氷季……さんて、話にまざるの好きじゃないの?」
シン 「ううん。嫌いではないと思うよ。ただ、主と緯仰さんの間に入れないんだよ。」
真夜 「うーん、なんか意気投合しちゃってるものね」
シン 「ね〜ずっとあの輝かしいばかりの笑顔でいるしね。」
氷季 「シン。酒数が減ってきたようだ。奥にある酒を持ってきなさい」
シン 「は、はい。」
真夜 「あ! 私も行く!」

 はいはいと勢いよく真夜は手を上げた。

氷李 「いや客人にそのようなことは」
真夜 「ダメですか? どうしても?」

 真夜の目は輝いていた。

氷季 「分かりました。ではシンと共にお願いします」

 氷李はしぶしぶ了承した。

真夜 「やったあ! えへへっ、探検したかったんだぁ」

 と、真夜は佐伯のそばに寄っていって耳打ちした。

真夜 「ちょっと佐伯。氷季さんが一人なの。相手してあげてよ」

 お願いね、と真夜はシンのもとに戻った。

シン 「暗いから足元気をつけてね。」
真夜 「うん」

 そうして真夜とシンは宴の部屋から出て行った。
 伸びたまま暁哉も呆れて放置されていた玲祈が一人目を覚ます。
 ぼけっとした眼がすこし離れたところに見覚えのあるものを見つける。

玲祈 「あ……れ? 鎮破、それ月破刀か?」

 剣はその言葉に鎮破のほうをみる

剣 「なんで刀を持っているんだ?」

 ちらりと視線だけ動かすも、鎮破は黙っていた。

剣 「なに黙ってんだよ。宴の席だぞ」

 鎮破はひとつため息を吐く。内心やっかいなのに見つかったと思うのと、玲祈への苛立ちが渦巻き始めていた。

鎮破 「……これは務め柄てばなせないんでな」
剣 「そういって、刀がないと落ち着かないとかそういうやつか」

 剣は挑発をかけるように鎮破にいう。
 自分は刀の代わりに木刀を持っているというのに…という嫉妬からきているのは言うまでもない。

鎮破 「勝手に言っていろ」

 鎮破は剣の返答も聞かずにまた箸を伸ばしていた。
 剣その態度に宴だからと抑えていた怒りを破裂させ勢い良く立ち上がる。

剣 「おい。表出ろよ」
鎮破 「出てやる義理はないがな」
剣 「なんだよ。俺に負けるのが恐いのか?腰抜けが」
鎮破 「ふっ。小さい犬ほどよく吠えるというがな」
剣 「はぁあ!」
星来 「うるさいぞ剣。黙れ」
剣 「うるせぇえ!なんならお前もでろ!」
星来はあきれたように溜め息を吐く
玲祈 「はあ? ちょっ――」

 玲祈は自分もと主張しかかって暁哉に口をふさがれた。

暁哉 「玲祈さまおやめください」
主 「またやってるなぁ剣のやつ。まぁ若気の至りってやつか」

 主は緯仰に一礼して、すっと立ち上がり部屋の外に置いておいた刀を剣に投げ渡した。

主 「ほーら受け取れ」
氷李 「主!!!」
緯仰 「煽ってしまっていいんですか?」

 緯仰は至って笑顔だった。

主 「面白そうじゃないか」

 主も高みの見物気分で笑っていた。
 笑顔の主の横では落胆している氷李が頭を抑えていた。
 佐伯はその光景をはらはらと見守っていた。
 まさか鎮破は乗らないだろうと思うが、空気が一本やる方向に動いているのは分かった。
 主から刀を受け取った剣は鞘に収まったままの刀の先を鎮破の眉間に向ける。

辰朗 「お! 喧嘩か!?」

 ぎろりと鎮破は横に目を移す。

鎮破 「うるさいぞ辰朗」
永輝 「やっちゃえ〜やっちゃえ〜」
剣 「当たり前だ。一瞬で片をつけてやる」
暁哉 「辰朗、お前はっ」

 しかし辰朗は暁哉の言葉を無視して話を続ける。

辰朗 「売られた喧嘩は買うってぇのが筋ってもんだろ。なにお前、やんねーなら俺が買うぜ。この月破刀借りて」
鎮破 「お前は素手だろ」
辰朗 「あら、バレた?」

 鎮破は立ち上がる。

永輝 「おぉ!始まるのか!」
氷季 「主お止めください」
鎮破 「売られた喧嘩を買う気はないが、剣の心得もないお前に刀を使われては五式の恥だからな。それに、どいつもこいつも騒々しい」
剣 「ふん。その気になればいいんだよ。いくぞ」
緯仰 「鎮破くんも大人気ないなぁ」
主 「そうかい? そういう君もそうじゃないかい?」
緯仰 「そうですか?」

 頬杖をついて笑っている緯仰に、鎮破は下座から睨みを飛ばす。

鎮破 「なんなら代わりにお相手していただいても良いのですが」
緯仰 「謹んでお断りするよ。頑張って」
主 「やればいいのに」
緯仰 「あなたが代わって差し上げては?」
主 「別に構わないが、こんなところで致命傷を負わせては可哀想じゃないか」

 主は扇子を閉じて肩を叩くしぐさをして、緯仰の顔をみる。

緯仰 「おや、うちの鎮破くんも甘く見られたものですね」

 不躾ながら緯仰は頬杖のまま主を見上げていた。

主 「少しは買っているつもりだがね」

 主は小声で挑発するように 「勝てばね」と言い、顔は笑っているが、緯仰を見る目は鋭く射っている。
 緯仰は微笑のままその視線を受け止めていた。
 すでに鎮破と剣は、じゃりという音をさせて地面降りていた。
 剣は抜刀をし、鞘をその辺に投げつけた。
 鎮破も鞘から刀身を外したが、鞘を掲げ持ったまま屋内を振り向いた。

鎮破 「辰朗、もっていろ」

 少々乱暴に鞘を辰朗の手に放った。
 剣は鼻で笑うと柄を強く握りめ構えの体勢になる。
 一方の鎮破はといえば無造作に剣先を下ろしていた。
 二人の間に一枚の紅葉した葉がひらひらと舞い降りた。
 そして……その葉が地面についたとき……。
 ザッという音と共に剣が先手を打った。
 剣は正面に向かって突き進み鎮破の懐に入ると下腹部から肩へ刃を走らせる逆袈裟斬りをお見舞いする。
 下げていた切っ先を鎮破はすばやく眼前まで上げ、横払いするように剣のその一撃を受け止めた。
 ちょうどのその場面とその音を、シンと戻ってきた真夜は見ていた。

真夜 「なにあれ!」
シン 「え?? どうして?」

 思わず持ってきた盆を落とすほどの驚きにかられ、ばたばたと真夜は広間の縁側まで走った。

真夜 「これどういうこと?!」

 縁側から身を乗り出そうとする真夜を永輝が部屋に引き戻す。

永輝 「は〜い。危ないから真夜ちゃんはおとなしく室内ね〜」

 戻ってきた真夜の姿を見止めた緯仰も縁側へと寄る。

緯仰 「始めちゃったんだ」

 緯仰はなんとも言いにくそうというな表情をつくる。
 そんな表情をしながら緯仰の視線は永輝を貫いていた。
 永輝はぎょっとなにか殺意を感じてそそくさと辰朗の横に戻る。

辰朗 「ん? どしたよ永輝とやら」
永輝 「え? なんか命が恋しくなってね」
辰朗 「なに、お前もなんか喧嘩でも売ったか?」
永輝 「滅相もございませんよ〜ささ辰朗様お酒をどうぞ〜」
辰朗 「おお、こりゃ悪いね」

 機嫌よく辰朗は永輝のお酌を受けていた。
 けしかけたくせにお酒と言われたら片割れのことなど眼中にない。
 シンは落としてしまったお盆を片付け始めた。
 剣はぐっと押し込みすぐさま後方に下がり間をとる。
 そして柄を片手で握りまた鎮破に突進する。

鎮破 「一つ覚えが」
剣 「どうかな!」

 一手目と同じように鎮破の懐に入る。
 鎮破も同じように来る相手ではないとは分かっていた。
 構えと見せて紙一重に体をずらす。
 剣は足に力を入れ砂埃を立たせて体勢をしゃがませるように回転して鎮破の足元を狙った。
 狙いが足元だと分かるや鎮破はそこから飛びのいて宙を返した。


 
 


紅葉の宴第二回 あとがき




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