飛界鏡で結ばれた二つの世界の住人、
式師・忍びたちは紅葉が綺麗な夜、
小さい宴を催すことになった。
主催者は忍び側の主
参加者は式師側では真夜・玲祈・鎮破 祓師の辰朗・緯仰・暁哉・佐伯
忍び側ではシン・剣・星来・永輝・丸・氷李
異なる文化を持つ二組の宴は一体どうなるのだろうか
紅葉の宴 1
作:柏秦透心&火月未音
紅く染まった葉がひらり、桟敷席に舞い落ちる。
見上げれば天高く、紅葉が一面を覆っていた。
その下には14人の若者が集い、宴が開かれるところであった。
「遅いな」
一人がつぶやいた。
「主!早く!もう刻限過ぎてます!」
慌しい足音が静かな廊下を小走りする
「そう焦ってもしょうがないよ」
なにやら気が抜けるような声が遠くから聞こえた
「なーなー、もう食べていいか?」
玲祈は、小声ながらこらえられないよう言う。
お目付け役はさらに声を潜めてたしなめた。
「ダメですよ。まだそろってないんですから」
「そーよ。私だって我慢してるんだから」
「真夜さま、声が大きいです。もう少し静かに」
「お、遅れてすいません!!」
息を切らしたシンが襖を開きその場で正座をし頭を下げた。
シンは顔を上げすでにそろっている一同をみる
「いいえ」
永輝 「シンそんなに急いだって主がまだ遠くだって…どうもこんばんは」
佐伯 「本日はお招き、ありがとうございます」
シン 「いえいえ。みなさんがお揃いで嬉しい限りです」
シン・剣・永輝はそれぞれの席についてまだ来ない者たちを待つ。
剣 「なぁまだアイツこないのかよ」
緯仰 「どうやら、少し早く来すぎてしまいましたか」
シン 「そんなことはないです!」
再び襖が開き氷李が中に入り挨拶をする。
氷李 「皆様本日は遠路はるばるお越し頂きありがとうございます。遅くなり申し訳ありません」
緯仰 「こちらこそ、ご招待いただき光栄です」
末席のひとつ上座の辰朗が、また小さくこぼしていた。
辰朗 「玲祈じゃないけど俺も腹減ってきた」
鎮破 「お前は黙って座っていろ」
氷李 「これはすいません。では主は不在ですが先に食事を召し上がってください。ほらシン客人へお酌を」
シン 「はい」
佐伯 「とんでもない!」
暁哉 「揃ってからで結構ですよ」
末席で鎮破が細い目で辰朗を射ている。
剣 「なぁ星来と丸は?」
シンはお腹を減らしていると思われる下座からお酌をしていく
氷李 「主の護衛をしてもらっている」
真夜 「シン! おひさしぶりだね」
近くまで来たシンに真夜は声をかけた。
シン 「あ! 久しぶり。真夜はお酒大丈夫?」
真夜 「え!? 無理無理無理無理! 私未成年よ?」
真夜は大きく首を振った。
シン 「み、みせいねん?そ、そうなんだ。じゃこのお茶でいい?」
シンはお酒と並んでいるお茶を取る
真夜 「あ、うん。ありがとう。手伝おうか?」
シン 「大丈夫だよ。もう終わるし、主も来るはずだから」
シンは真夜の隣りに座る男性にお酌をしようと移動する
シン 「初めまして。シンと申します」
緯仰 「丸崎緯仰です。よろしく」
緯仰は笑顔でお酌を受けた。その笑顔にシンは安心してお酌をした。
主 「どうだい? 宴は楽しんでいるかな」
剣 「遅えよ!」
真夜や緯仰をはじめとする7人の視線も主に集中する。
視線に気づいた主は開いていた扇子を閉じ軽く笑顔で会釈をした。
氷李 「主。席はこちらに」
主 「ああ」
主が席についてから星来と丸が部屋に入ってきてそれぞれの席についた
主は自分の前に座る緯仰に「どうも」と簡単な挨拶をした
真夜を見ていた緯仰は、そっと顔を上げる。
緯仰 「本日は紅葉の宴、ご招待いただきまして光栄です。一同を代表してお礼を申し上げます」
主 「堅苦しい挨拶は結構だ。皆が楽しんでくれたらそれでいい」
緯仰 「有り難く」
氷李 「これで全員が揃ったと見て大丈夫でしょうか?」
佐伯 「はい。こちらは7名ですので」
鎮破は、静かに正面を見ていた。
まだかと心でつぶやく玲祈を、暁哉は足裏をつねってたしなめていた。
星来は軽く鎮破を見るがすぐに視線を庭に向ける。
剣は星来の前に座る鎮破を睨み付ける。
氷李 「全員が揃ったということで、主。お願いします」
再び全員の目が主に向いた。
主はその少し緊張した雰囲気を楽しむかのように微笑んだ。
杯を片手に持ち一同に身体を向けた
主 「今宵は月も美しく輝き、宴に最適な日にこうして各々が集まれたことは誠に嬉しい限りだ。この寒さに負けず温まる時を過そうではないか。では乾杯」
一同 「乾杯!」
玲祈 「よっしゃぁぁ!! 食うぜ俺は」
暁哉 「玲祈さまっ」
真夜 「うっわぁ超おいしそー!」
永輝 「どれから手をつけようかな〜」
丸 「永輝!」
永輝 「そういうなって。今夜は宴だぜ?楽しまなきゃ損損」
緯仰はくっと杯を空けた。なにやらその眼で膳の品定めをしている。
主 「毒なんて物騒なものはいれてないから安心して手をつけてくれ」
緯仰 「これは失礼。真夜ちゃん、これおいしそうだよ」
緯仰は見定めた中の一つの器を真夜に渡した。
真夜 「え!緯仰おにいさんの食べる分が……」
緯仰 「でも、おいしそうでしょ?それに、こういうのは女性の方が好きだと思うし」
主は扇子を広げて緯仰たちのその様子を窺う。
笑顔で真夜は押し切られる。
真夜 「……はい、いただきます」
主 「そうだ。真夜殿。食事中すまないが、よければそちらの紹介を頼んでもいいかな」
真夜 「私からですか?!」
主 「あぁ。お願いするよ」
主は笑顔で真夜にいった。真夜は緯仰をちらりと見る。
笑顔でうなずかれたので真夜は張り切った。
真夜 「それでは改めてはじめまして。一式真夜と言います。今日は紅葉パーティーにご招待ありがとうございました。
私からこちらの紹介をさせていただきます。まずはこちら、私の左隣から」
真夜は手で緯仰を指し示した。
真夜 「三の式家の分家にあたる、丸崎緯仰さん」
緯仰 「緯仰と言います。よろしく」
やわらかな笑顔で緯仰は主以下7名に会釈した。
主以外は緯仰に会釈を返し、主は扇子で口元を隠しながら
面白そうなものを見つけたように緯仰を見る。
主のその扇子から見えている眼の意味になんとなく緯仰は気づいたが、
知らないふりをして真夜の次の動作を見ていた。
真夜 「え……っと、次は……ちょっと玲祈!」
玲祈 「んあ?」
玲祈は碗から箸で取り上げた湯葉包みを口に入れるところであった。
真夜 「私の右二つ隣に座っていますのは、四式玲祈と申します。ほら、玲祈」
真夜は語尾をフェードアウトするようにひそめた。
暁哉に言われてようやく気づいたのか、勢いよく箸を置いて立ちあがった。
シンたちは立ち上がった玲祈に注目する
玲祈 「玲祈です。うらそこの剣!今度は俺が勝負だぜ」
剣 「……は?」
剣は突然の指名に思わず持っていた箸を落とした。
鎮破 「阿呆が・・・・・・」
星来 「…」
剣は鎮破を一度見てから玲祈いう
剣 「玲祈だっけ。悪いけど俺はまずそこのやつ(鎮破)との勝負がまだついていなんだ」
玲祈 「へっ、んなこと関係ないぜ」
玲祈は自分の膳を跨いだ。
暁哉 「玲祈さまっ! やめてくださいっ」
シン 「え?!」
真夜 「れーき、う・る・さ・い!」
暁哉は必死に玲祈のガクランの裾を掴んで押さえている。
星来 「剣。付き合ってやれ」
剣 「は? なんで今なんだよ。今度って言ってるだろ」
佐伯 「玲祈くん、今は……」
緯仰 「そうだよ。まだ紹介が終わってないし、時間はまだまだあるし」
暁哉 「そーですよ」
永輝 「ほら剣も落ち着けって。」
主 「若者は元気があっていいな。さぁ続きをどうぞ」
真夜 「もう、れーきはぁ……コホンッ」
真夜は小さく咳払いをした。
真夜 「末席におりますのは五式鎮破」
鎮破 「鎮破と申します。先だってはこちらの二人がご面倒をおかけしてすみませんでした」
鎮破は淡々と挨拶を終えた。
主 「君が鎮破か。話は聞いているよ。こちらこそ剣が世話になった。」
星来はしっかりと前に座る鎮破の顔を真っ直ぐ見る
鎮破と星来の間に見えない緊張の雰囲気が漂っているように感じたシンは真夜に続きを促した。
シン 「真夜。他の方の紹介もお願い。」
真夜 「ん、そーね。これは私のお目付け役で佐伯誠人」
真夜に指し示されると、佐伯は頭を下げた。
佐伯 「私からもお礼を申し上げます。不慮のこととはいえ、夜分お世話になりまして」
シン 「お目付け役…真夜って姫様だったんだね。」
真夜 「違う違う。要は世話役よ」
永輝 「いやーびっくりしましたよ〜穴をのぞいたら可愛い女の子がいて」
シンと剣は同時に永輝の背中を叩いた。
シン 「でもお世話役とはいえ、こんな素敵な方が身近にいるなんてうらやましいな」
緯仰 「お褒めに預かって光栄だね、真夜ちゃん」
当然だけど、と緯仰は心の中でつぶやいた。
真夜 「緯仰おにいさんまで。シン、あのね、素敵っていうけどお小言は多いしなのよ?」
主 「小言か。それだったら氷李も負けていないよな」
氷李 「それはまた別のものです。主がしっかり仕事をしてくだされば…」
主 「それを小言っていうんだよ」
シン 「小言を言うってことは、真夜が心配でしょうがないってことじゃない」
真夜 「心配症すぎるのよぉ〜」
佐伯 「何をおっしゃるんですか。心配して当たり前です」
玲祈 「だよなぁ真夜。暁哉だって心配性のお小言こぼしなんだぜ。ったく参るよなぁ」
永輝 「なに?玲祈にも目付け役がいるのか??」
玲祈 「お目付け役っちゃそーだよな、暁哉」
暁哉 「佐伯さんの気持ちは痛いほど分かります」
真夜 「そちらの席の二人は、玲祈と鎮破の祓い師なの」
暁哉 「川間暁哉と申します。四式家で玲祈さまの祓い師をしております」
シン 「あのーその祓い師ってなんですか?」
真夜 「んー・・・・・と」
緯仰 「真夜ちゃんや玲祈君・鎮破くんは、僕も含めて式師という。
影と呼ばれる敵を倒す役目を負っているんだけど、倒すとどうしても悪いものがついちゃう。それを祓うのが祓い師」
真夜 「緯仰おにいさんありがとうございます」
主 「ほう」
緯仰は笑顔を真夜に向ける。
緯仰 「もっとも私は式師と言っても末端で、この三人と他に二人」
シン 「真夜たちってすごいんだね。聞いてて驚いちゃったw」
真夜 「すごくなんてないよ。疲れるしめんどくさいし」
辰朗は、すでに目が据わったまま酒を飲み続けていた
辰朗 「はいは〜い。俺らってすごいんらぜ? 川間辰朗と言えばちっとぁ名の知れた族でな」
鎮破 「いつからお前は族になったんだ」
辰朗 「はぁ〜しずら、お前なにシラフってんらよぉ」
剣 「完全に酔ってるなこいつ…」
辰朗 「おっ、剣とやら、お主れきるなっ。ぬわんちゃって。ヒック」
剣 「面倒な奴だな…」
暁哉 「辰朗、お前飲みすぎるぞ」
辰朗 「なに言ってんらよo.宴会ってのは酔ってなんぼなんだよ。な!大将さんよ!」
辰朗は上座の主に向かって杯を上げた。
主 「その通りだ! まだまだ酒はあるからたくさん飲みたまえ」
氷李 「主!」
主はいくらお酒を飲んでも酔わない酒豪というのを知っているシンは溜め息をついた。
辰朗 「やっぱ話分かる大将はいいよなぁ。こちとらむっつりお山の大将だからなぁ」
鎮破 「誰がだ」
辰朗 「あ、やっぱし分かる?」
ゲラゲラと辰朗は笑う。
主 「ほら君も飲んでくれ」
そういって主は緯仰にお酌をしようと鉄瓶を持ち上げる
氷李はまた別のお膳に載せていた皿を真夜に渡した。
真夜 「わー、ありがとうございます。金平糖なんて久しぶり」
緯仰は空の杯を差し出す。
緯仰 「では一献、お付き合いさせていたきます」
主は出された杯に適量の酒を注いだ。偉仰は笑顔を見せるとくっと一口で飲み干した。
緯仰 「良いお酒ですね。真夜ちゃん金平糖好き?」
真夜 「好きですけど、結構久しぶりにみたんで」
主 「気に入ったなら結構。酒も金平糖もこの日のために取り寄せたものだからな。」
真夜 「わざわざ?!お取り寄せ?」
佐伯 「お嬢様、味わって食べてください。甘いものには眼がないんですから」
氷李 「たくさん食べてください。まだまだありますから」
真夜 「シンは?金平糖。食べてる?」
シン 「うーん。たまに主が気まぐれでくれたときはありがたく食べてるよ」
真夜 「もしかしてこっちって甘いものって珍しい?」
シン 「そうだね。大きい町に行けばあるけど、小さい町にはあんまり見ないね。真夜のところは甘いものはたくさんあるの?」
真夜 「あるよ。ケーキとかアイスクリームとかクッキーとかクレープとか」
シン 「け、けえき、」
主 「聞いたことが無いものばかりだな。ぜひ食してみたいものだ」
真夜 「ぜひぜひ。クリームのってておいしいから」
主 「じゃあ、真夜殿が作ったものを食べさせてほしいな」
真夜 「え! ……私食べるの専門で得意じゃなくて」
主の提案にしどろもどろ真夜は答える。
緯仰 「そういえば、ここは忍びの里と聞きましたが」
真夜の反応を面白く見ていた主は、すぐに緯仰をみる。
もっとも主の気を真夜から離すことが緯仰の目的だった。
主「あぁ、その通りだがなにか?」
緯仰 「あなたも忍び……ですか」
緯仰の質問に主は興味深そうに扇子を軽く扇ぎながら微笑みかける。
主 「君には私はどう映っているのかい?」
少し間が空き緯仰と向き合った主は、緯仰の表情が変らないことに笑った。
主 「ふふ。そんな顔をするな。」
緯仰 「いえ、私の忍びのイメージとはかけ離れていたので」
緯仰は穏やかな顔で主の質問を返した。
緯仰 「ずいぶん風流な常春の忍びがいるな、と」
主は穏やかな顔をで淡々と応える緯仰をみて、面白くなってきたのを感じた。
もちろん緯仰も、食えない相手が面白い。
主 「まぁこの姿で忍びといっても信じるものは少ないだろう。だけど、反対にそれはいろいろと利用しやすいんだよ」
緯仰 「そう……かもしれませんね。でも、バラして良かったんでしょうか? そんなこと」
緯仰の語尾が弾む。主は真っ直ぐ緯仰を見たまま扇子を片手で閉じる
主 「特に問題はない。君たちが我々の秘密を知ったところで、異世界のものの意見を信じるものはいないだろうからな」
見るからに主は掴めない緯仰の発言を楽しんでいる。
緯仰 「確かに。私たちの世界でも逆のことは言えるでしょう。今時そんな格好で街を出歩いては、コスプレ狂にしか見えませんからね」
主 「ははは。そうか、でも君は我々が忍びということを知っていて言っているのだよね」
緯仰 「ごく一般人の認識はそのくらいの方が、忍びにとっては好都合なんじゃないですか」
真夜はシンの席の前に来ていた。
真夜 「緯仰おにいさんたち盛り上がってるね」
主 「だとしたら、君が思っている忍びは変装もできない忍びだな」
シン 「そうだね。二人とも穏やかな雰囲気で」
緯仰 「そういうわけじゃないですが否定はしません。むしろ変装する必要がないのかもしれないですね」
わずかに笑って、緯仰は玲祈を見た。
主 「その通り。それに変装しなくても人目につかなければ大丈夫なことだ」
緯仰 「悪目立ちなんじゃないですか? それでは」
今度は自分を振りかえりみて苦笑する。
主 「ご心配なく。少なくとも我々は失敗することはないよ」
主は苦笑する緯仰に満面の笑顔で返して、玲祈のほうを一度見る
主 「そういうえば、玲祈は忍びの血筋そだうだね。」
緯仰 「忍ぶ者という言葉とのギャップは感じますが、能力は結構なものですよ」
主「ほう。では君は玲祈のようになにかの血が流れているのかい?」
緯仰 「血……ですか。あえて言うならば式の血ですか。もっとも他の式師すべてに共通することですから、玲祈君のような特別があるわけじゃない」
主「そうなのか」
以外だという感じで主は閉じた扇子をもう片方の手に軽く叩き当てた。
緯仰 「ここは、血で資格を得るのですか?」
主 「どんな血筋が流れていようが関係ないよ。悪い気にさせたならすまなかった。ただ君にはどんな血筋があるのか気になってね」
まるで非を認めていない笑顔で緯仰に軽く頭を前に動かした。
シン 「真夜。お饅頭食べる?」
真夜 「食べる食べる! 上座は穏やかなんだけど、下座の方がなんとも複雑」
シン 「穏やかっていうのがなんか恐く感じるのは私の気のせいかな? あ〜下座はほっといて大丈夫だよ。たぶん」
真夜 「でもあのうるさいのとへべれけ加減とむっつりって見てて複雑極めてると思わない?」
シン 「こっちは静かなのが二人にうるさい二人だがら、見ててもほっといちゃえって思っちゃうよ」
真夜 「ほら、まーた絡み始めた。どーして男の人たちってあーなのかなぁもう。あれ?れーきもなんか目がおかしくない?」
シン 「男の人ってあーならないと溜っている鬱憤とか晴らせないんだよ。きっと。…あれ?丸が動いてない?」
真夜は目が垂れ始めた玲祈に、シンは頭を下げたまま動かない丸の方に顔を向けた。
紅葉の宴第一回 あとがき
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